刑法 | 難易度 ★ |
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不作為犯に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ
(2019年度)
司法R元-1、予備R元-3 | 不作為犯 | 正解 5 |
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誤っているものは、エ、オであり、正解は5となる。
ア | 正しい。 | 判例は、「シャクティ治療」と称する独自治療を唱導していた被告人が、その信奉者から重篤な患者である親族に対する「シャクティ治療」を依頼され、同患者を入院中の病院から運び出させた上、必要な医療措置を受けさせないまま放置した事例において、「被告人は、自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、患者が運び込まれたホテルにおいて、被告人を信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際、被告人は、患者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである」とし(最決平17.7.4 刑法百選Ⅰ〔第7版〕6事件)、先行行為、保護の引受け、排他的支配を根拠に、作為義務(直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けされる義務)があったとしており、法律上の規定から作為義務を導いてはいない。したがって、不作為犯は、結果発生を防止しなければならない義務が法律上の規定に基づくものでない場合であっても、成立する余地がある。よって、本記述は正しい。*西田(総)126~129頁。基本刑法Ⅰ85~86頁。 |
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イ | 正しい。 | 判例は、死体遺棄罪は、葬祭をする責務を有する者が、葬祭の意思なく死体を放置して立ち去る場合にも成立するとしている(大判大6.11.24)。したがって、葬祭義務を有する者が死体等を放置すれば、不作為による死体遺棄罪(刑法190条)は成立する余地がある。よって、本記述は正しい。*西田(各)431~432頁。リーガルクエスト(刑法各論)392頁。条解刑法536頁。 |
ウ | 正しい。 | 判例は、不作為による放火の事例において、「被告人は自己の過失により……物件が焼燬されつつあるのを現場において目撃しながら、その既発の火力により……建物が焼燬せられるべきことを認容する意思をもってあえて被告人の義務である必要かつ容易な消火措置をとらない不作為により建物についての放火行為をなし、よってこれを焼燬したものであるということができる」とし(最判昭33.9.9 刑法百選Ⅰ〔第7版〕5事件)、放火罪(刑法108条以下)の主観的要件として、既発の火力を利用する意思を不要として、単に焼損を認容する意思をもって足りるとしている。したがって、不真正不作為犯の故意は、結果の発生を意欲していなくとも、認められる余地がある。よって、本記述は正しい。*山口(総)83~84頁。基本刑法Ⅰ88頁。条解刑法334~335頁。 |
エ | 誤 り。 | 不作為犯が成立するためには、不作為者に作為可能性が認められることが必要である。法は不能なことを強いることはできないからである。ウの解説で述べたように、前掲最判昭33.9.9も、「被告人の義務である必要かつ容易な消火措置をとらない不作為により建物についての放火行為をなし」としており、作為可能性を要求している。したがって、不作為犯は、作為可能性がない場合には成立しない。よって、本記述は誤りである。*山口(総)94~95頁。基本刑法Ⅰ88頁。刑法総論講義案74~75頁。 |
オ | 誤 り。 | 判例は、覚せい剤の注射により錯乱状態になった少女をホテルの客室に放置したため同女が死亡した事例において、「直ちに被告人が救急医療を要請していれば、同女が年若く(当時13年)、生命力が旺盛で、特段の疾病がなかったことなどから、十中八九同女の救命が可能であった」として、「同女の救命は合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められるから」、被告人が同女をホテルの客室に放置した行為と同女が覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、「刑法上の因果関係がある」としている(最決平元.12.15 刑法百選Ⅰ〔第7版〕4事件)。したがって、不作為犯について、期待された作為に出ていれば結果が発生しなかったことが、合理的な疑いを超える程度に確実であったといえない場合には、因果関係が認められる余地はない。よって、本記述は誤りである。*西田(総)123~124頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
憲法 | 難易度 ★ |
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憲法第21条に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。
(2019年度)
司法R元-6、 予備R元-3 |
憲法第21条 | ア.【1】 | イ.【1】 | ウ.【2】 |
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正解は、
ア.【1】 | イ.【1】 | ウ.【2】
となる。
ア | bの見解がaの見解の根拠となっている。 | 判例は、税関検査が憲法21条2項前段の「検閲」に当たるかどうか等が争われた事例において、「憲法21条2項前段の規定は、……検閲の絶対的禁止を宣言した趣旨と解される……憲法21条2項にいう「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである」としている(最大判昭59.12.12 憲法百選Ⅰ〔第6版〕73事件)。aの見解は、同判決における検閲の定義と同じものである。そして、同判決は、「検閲」を前記のように解する理由として、大日本帝国憲法下では、「文書、図画ないし新聞、雑誌等を出版直前ないし発行時に提出させた上、その発売、頒布を禁止する権限が内務大臣に与えられ、その運用を通じて実質的な検閲が行われたほか、……映画フィルムにつき内務大臣による典型的な検閲が行われる等、思想の自由な発表、交流が妨げられるに至った経験を有する」ことを挙げている。これは、bの見解と同様の見解である。よって、bの見解がaの見解の根拠となっている。 |
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イ | bの見解がaの見解の根拠となっている。 | 判例は、公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等を記載した出版物の頒布等の事前差止めがいわゆる事前抑制として憲法21条1項に違反しないかが争われた事例において、表現行為の事前抑制の弊害について、「表現行為に対する事前抑制は、……表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きい」としている(最大判昭61.6.11 北方ジャーナル事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕72事件)。これは、事前抑制の弊害について言及したものであり、bの見解と同趣旨のものである。そして、同判決は、事前抑制の弊害を踏まえた上で、出版物の頒布等の事前差止めの許容性の判断につき、「表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法21条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。出版物の頒布等の事前差止めは、このような事前抑制に該当するものであって、とりわけ、その対象が公務員又は公職選挙法の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、そのこと自体から、一般にそれが公共の利害に関する事項であるということができ、……憲法21条1項の趣旨に照らし……その表現が私人の名誉権に優先する社会的価値を含み憲法上特に保護されるべきであ」るとした上で、「出版物の頒布等の事前差止めは、……その対象が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関するものである場合には、……事前差止めは、原則として許されないものといわなければならない。ただ、右のような場合においても、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものではないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、……例外的に事前差止めが許される」としている。判旨後半部分は、aの見解と同内容のものである。よって、bの見解がaの見解の根拠となっている。 |
ウ | bの見解がaの見解の根拠となっていない。 | 判例は、市民会館の使用許可の申請に対して、申請者に反対する者らがこれを妨害するなどして混乱が生じると懸念されることを一つの理由として不許可処分としたことの適否が争われた事例において、「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、……警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られる」としている(最判平8.3.15 上尾市福祉会館事件 地方自治百選〔第4版〕57事件)。これは、aの見解と同様の見解であり、敵意ある聴衆の法理と呼ばれる。同法理は、公の施設の利用の保護、すなわち、集会の自由の保護を強めるものである。一方、判例は、集会又は集団行動の許可制を規定する公安条例の合憲性が問題となった事例において、「集団行動による思想等の表現は、……現在する多数人の集合体自体の力、つまり潜在する一種の物理的力によって支持されていることを特徴とする。……この場合に平穏静粛な集団であっても、時に昂奮、激昂の渦中に巻きこまれ、甚だしい場合には一瞬にして暴徒と化し、勢いの赴くところ実力によって法と秩序を蹂躙し、集団行動の指揮者はもちろん警察力を以てしても如何ともし得ないような事態に発展する危険が存在すること、群集心理の法則と現実の経験に徴して明らかである」としている(最大判昭35.7.20 東京都公安条例事件 憲法百選Ⅰ〔第6版〕A4事件)。これは、bの見解と同様の見解であり、集団暴徒化論と呼ばれる。そして、集団暴徒化論は、集団行動の危険性に着目し、集団行動による表現の自由の事前規制を許容する根拠となる理論である。そうすると、aの見解は集会の自由を保障する方向に働くものであり、bの見解は集会の自由の規制を許容する方向に働くものであるから、両見解は相反するものである。よって、bの見解がaの見解の根拠となっていない。*佐藤幸(日本国憲法論)288頁、291頁。渋谷(憲法)455頁、457頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
民法 | 難易度 ★ |
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財産分与に関する次のアからオまでの各記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.エ オ
(2019年度)
予備R元-13 | 不作為犯 | 正解 5 |
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誤っているものは、エ、オであり、正解は5となる。
ア | 正しい。 | 離婚した者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる(協議上の離婚について、民法768条1項。裁判上の離婚について、同771条・768条1項)。この財産分与の目的について、判例は、「離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであ」るとしている(最判昭46.7.23 民法百選Ⅲ〔第2版〕18事件)。よって、本記述は正しい。*リーガルクエスト(親族・相続)98~99頁。新基本法コメ(親族)91頁。 |
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イ | 正しい。 | 債権者代位権は、債権者が自己の債権を保全するために、債務者に属する権利を行使することを認めるものであるから、被保全債権が存在していることが必要である(民法423条1項)。離婚における財産分与請求権が債権者代位権の被保全債権となるかについて、判例は、「離婚によって生ずることあるべき財産分与請求権は、一個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確であるから、かかる財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することはできないものと解するのが相当である」としている(最判昭55.7.11 民法百選Ⅱ〔第3版〕15事件)。よって、本記述は正しい。*リーガルクエスト(親族・相続)100頁。中田(債総)210頁。 |
ウ | 正しい。 | アの解説で述べたように、前掲最判昭46.7.23は、財産分与制度の目的を述べた後、「分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有責な行為によって離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない」から、「すでに財産分与がなされたからといって、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである」が、「裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定めるについては、当事者双方におけるいっさいの事情を考慮すべきものであるから、分与の請求の相手方が離婚についての有責の配偶者であって、その有責行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被った精神的損害を賠償すべき義務を負うと認められるときには、右損害賠償のための給付をも含めて財産分与の額および方法を定めることもできると解すべきであ」り、「財産分与として、右のように損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合には、さらに請求者が相手方の不法行為を理由に離婚そのものによる慰藉料の支払を請求したときに、その額を定めるにあたっては、右の趣旨において財産分与がなされている事情をも斟酌しなければならないのであり、このような財産分与によって請求者の精神的苦痛がすべて慰藉されたものと認められるときには、もはや重ねて慰藉料の請求を認容することはできないものと解すべきである」とした上で、「しかし、財産分与がなされても、それが損害賠償の要素を含めた趣旨とは解せられないか、そうでないとしても、その額および方法において、請求者の精神的苦痛を慰藉するには足りないと認められるものであるときには、すでに財産分与を得たという一事によって慰藉料請求権がすべて消滅するものではなく、別個に不法行為を理由として離婚による慰藉料を請求することを妨げられないものと解するのが相当である」としている。よって、本記述は正しい。*リーガルクエスト(親族・相続)98~99頁。 |
エ | 誤 り。 | 判例は、「財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法768条3項の規定上明らかであ」り、「したがって、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によって、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であってもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである」とし、「そうであるとするならば、分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である」としている(最判昭58.12.19 家族法百選〔第6版〕17事件)。したがって、離婚に伴う財産分与としてされた財産処分は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情が認められる場合には、詐害行為として取り消され得る。よって、本記述は誤りである。*リーガルクエスト(親族・相続)99~100頁。中田(債総)244頁。 |
オ | 誤 り。 | 判例は、「内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当であ」り、「民法は、法律上の夫婦の婚姻解消時における財産関係の清算及び婚姻解消後の扶養については、離婚による解消と当事者の一方の死亡による解消とを区別し、前者の場合には財産分与の方法を用意し、後者の場合には相続により財産を承継させることでこれを処理するものとしている。このことにかんがみると、内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない」から、「生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできないといわざるを得ない」としている(最決平12.3.10 民法百選Ⅲ〔第2版〕25事件)。したがって、内縁の夫が死亡して内縁関係が解消したときには、内縁の妻は、内縁の夫の相続人に対し、財産の分与を請求することはできない。よって、本記述は誤りである。*リーガルクエスト(親族・相続)114頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
刑法 | 難易度 ★★ |
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次の各【見解】と後記の各【事例】を前提として、後記アからエまでの各【記述】を検討し、正しい場合には1を、誤っている場合には2を選びなさい。
(2019年度)
司法R元-5、 予備R元-7 |
因果関係 | ア.【1】 | イ.【2】 ウ.【2】 | エ.【1】 |
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本問は、因果関係に関する【見解】と【事例】を前提に、【記述】の正誤を判断する問題である。因果関係とは、実行行為と構成要件的結果との間にある一定の原因と結果の関係をいい、どのような場合に因果関係を認めるかについては、以下のように、複数の見解がある。
見解A及び見解Bは、相当因果関係説(相当説)における判断の基礎(判断基底)に関する対立である。
見解Aは、行為当時に客観的に存在した全ての事情及び行為後に生じた事情のうち一般人にとって予見可能であった事情を判断の基礎として、その行為から結果が生ずることが相当であると認められる場合に因果関係を肯定する(客観説)。
次に、見解Bは、一般人が認識・予見できたであろう事情及び行為者が特に認識・予見していた事情を判断の基礎とし、その行為から結果が生ずることが相当であると認められる場合に因果関係を肯定する(折衷説)。
他方、見解Cは観点を異にし、行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に因果関係を肯定し、行為時に存在した全ての事情を基礎として判断する(危険の現実化説)。
なお、近時の判例においては、見解Cによって因果関係が判断されていると考えられる。
*大谷(講義総)199~223頁。基本刑法Ⅰ65~78頁。
ア | 正しい。 | Ⅰの事例では、乙がもともと特殊な病気により脳組織が脆弱であったため、甲の殴打によって死亡したという特別の事情がある。まず見解A(客観説)では、行為当時に客観的に存在した全ての事情が判断の基礎とされるので、乙の脳組織が脆弱だったという事情は判断の基礎となる。そして、脳組織が脆弱な者の顔面に対する殴打という行為から、脳組織の崩壊による死亡という結果が生ずることは相当の範囲内といえ、因果関係は肯定できる。また、見解C(危険の現実化説)からも、顔面を殴打するという行為自体の危険性には、脳組織の崩壊を引き起こす危険性が内包されており、そのような危険が死亡結果に実現されたといえるので、因果関係は肯定できる。これに対して、見解B(折衷説)からは、行為当時、乙の脳組織が脆弱となっていることを一般人は認識できず、また、甲も認識していなかったのであるから、乙の脳組織が脆弱であったという事情は、判断の基礎から外される。そうすると、単に顔面を手拳で1回殴打する行為から、脳組織の崩壊による死亡結果が発生することは相当とはいえず、因果関係は否定される。よって、本記述は正しい。*大谷(講義総)199~223頁。西田(総)104~110頁。基本刑法Ⅰ65~78頁。 |
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イ | 誤 り。 | 本記述は、アの記述と異なり、甲は乙の脳組織が脆弱であることを認識できたという事情がある。まず、見解A(客観説)からは、行為当時の甲の認識によって判断の基礎は左右されないため、アの記述と同様に因果関係は肯定できる。また、見解C(危険の現実化説)についても、甲の認識の有無によって結論に変化はないので、因果関係が肯定される。見解B(折衷説)は、行為者が特に認識していた事情を判断の基礎とすることを認めるが、甲は乙の脳組織が脆弱であるという事情を認識していたのではなく、認識が可能であったというにとどまる。そのため、乙の脳組織が脆弱であるという事情は、判断の基礎から外される。そのため、因果関係は否定される。よって、本記述は誤りである。*大谷(講義総)199~223頁。西田(総)104~110頁。基本刑法Ⅰ65~78頁。 |
ウ | 誤 り。 | Ⅱの事例では、乙が治療を受けたが、医師の指示に従わず安静に努めなかったため、治療の効果が減殺され、甲による傷害によって死亡している。見解B(折衷説)からは、乙が安静に努めなくなることを甲が予見していたので、その事情は判断の基礎となる。そうすると、医師の指示に従わず安静に努めないであろう者に対して、直ちに治療しなければ数時間のうちに死亡する程度の傷害を負わせる行為から、当該死亡結果が発生することは相当であるといえるので、因果関係は肯定できる。次に、見解A(客観説)では、乙が安静に努めないという行為後の事情について、一般人は予見できなかったので判断の基礎とはならない。そうすると、首をナイフで刺すという甲の行為と、乙が医師の指示に従わず安静に努めなかったため、治療の効果が減殺して死亡するという経路をたどった結果発生は相当の範囲にとどまるとはいえず、因果関係は否定される。見解C(危険の現実化説)からすると、確かに被害者乙自身が安静に努めなかったという介在事情はあるが、それは治療の効果を減殺するにとどまるもので、甲が乙の首をナイフで突き刺すという行為の危険性の大きさからして、死亡結果に実現したことを否定するものではなく、因果関係は肯定できる。よって、本記述は誤りである。*大谷(講義総)199~223頁。西田(総)104~110頁。基本刑法Ⅰ65~78頁。 |
エ | 正しい。 | Ⅲの事例では、乙は、甲により直ちに治療しなければ1日後には死亡する程度の傷害を負わされたが、無関係の通行人という第三者が腹部を多数回蹴ったことで内臓が破裂し、乙は死亡している。見解A(客観説)からは、行為当時、行為後の第三者の介在事情について、一般人は予見できなかったのであるから、この事情を判断の基礎とすることはできない。そして、この第三者によって直接の死亡原因が形成されており、甲の殴打と乙の死亡結果の間の因果関係は否定される。次に、見解B(折衷説)では、第三者の行為が介在した事情について、一般人が予見できず、また甲も予見していなかったため、判断の基礎とすることができない。そのため、見解A(客観説)と同様に、因果関係は否定される。そして、見解C(危険の現実化説)においても、第三者により内臓破裂が引き起こされ、これを原因として乙が死亡しており、甲の行為に内包される危険性が結果に実現したとはいい難く、因果関係は否定される。よって、本記述は正しい。*大谷(講義総)199~223頁。西田(総)104~110頁。基本刑法Ⅰ65~78頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
憲法 | 難易度 ★★ |
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日本国憲法の改正に関する次のアからウまでの各記述について、それぞれ正しい場合には1を、誤っている場合には2を選びなさい。
(2019年度)
司法R元-20、 予備R元-12 |
日本国憲法の改正 | ア.【1】 | イ.【1】 | ウ.【2】 |
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ア | 正しい。 | 憲法改正は、国会の発議、国民の承認、天皇の公布という3つの手続を経て行われる(憲法96条)。ここにいう「発議」とは、通常の議案について国会法などでいわれる発議が原案を提出することを意味するのとは異なり、国民に提案すべき憲法の改正案を国会が決定することを意味している。よって、本記述は正しい。*芦部(憲法)405頁。野中ほか(憲法Ⅱ)408~409頁。佐藤幸(日本国憲法論)36頁。 |
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イ | 正しい。 | 憲法改正のためには国民の「過半数の賛成」によって、国民に承認されることが必要である(憲法96条1項後段)。この「過半数の賛成」の意味については、①有権者総数の過半数の賛成、②投票総数の過半数の賛成、③有効投票総数の過半数の賛成とする説がある。そして、日本国憲法の改正手続に関する法律は、「投票総数」を「憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数」としており(同98条2項、126条1項)、③説を採用している。よって、本記述は正しい。*芦部(憲法)408頁。野中ほか(憲法Ⅱ)395頁。佐藤幸(日本国憲法論)37頁。 |
ウ | 誤 り。 | 日本国憲法の改正手続に関する法律では、一定の投票率に達しない場合は、たとえ国民の過半数の賛成を得たとしても国民の承認は得られなかったものとする最低投票率の制度は採用されていない。よって、本記述は誤りである。*佐藤幸(日本国憲法論)37頁。憲法の争点327頁。新基本法コメ(憲法)503~504頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
民法 | 難易度 ★★ |
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過失相殺及び損益相殺に関する次のアからオまでの各記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
1.ア イ 2.ア ウ 3.イ オ 4.ウ エ 5.エ オ
(2019年度)
司法R元-29、 予備R元-12 |
過失相殺及び損益相殺 | 正解 4 |
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誤っているものは、ウ、エであり、正解は4となる。
ア | 誤 り。 | 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる(過失相殺 民法722条2項)。そして、判例は、「民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である」としている(最大判昭39.6.24 民法百選Ⅱ〔第8版〕105事件)。よって、本記述は誤りである。*窪田(不法行為法)426頁。潮見(基本講義・債各Ⅱ)122~123頁。 |
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イ | 誤 り。 | 判例は、「不法行為に基づき被害者に対して支払われるべき損害賠償額を定めるに当たっては、被害者と身分上、生活関係上一体を成すとみられるような関係にある者の過失についても、民法722条2項の規定により、いわゆる被害者側の過失としてこれを考慮することができ」、「内縁の夫婦は、婚姻の届出はしていないが、男女が相協力して夫婦としての共同生活を営んでいるものであり、身分上、生活関係上一体を成す関係にあるとみることができる」から、「内縁の夫が内縁の妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが衝突し、それにより傷害を負った内縁の妻が第三者に対して損害賠償を請求する場合において、その損害賠償額を定めるに当たっては、内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができると解するのが相当である」としている(最判平19.4.24)。よって、本記述は誤りである。*窪田(不法行為法)433頁。潮見(基本講義・債各Ⅱ)124~125頁。 |
ウ | 正しい。 | 判例は、「複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合(以下「絶対的過失割合」という。)を認定することができるときには、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負うものと解すべきであ」り、「これに反し、各加害者と被害者との関係ごとにその間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺をすることは、被害者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる」としている(最判平15.7.11 交通事故百選〔第5版〕77事件、平15重判民法14事件)。よって、本記述は正しい。*窪田(不法行為法)490頁。潮見(基本講義・債各Ⅱ)124頁。 |
エ | 正しい。 | 判例は、「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である」としている(最判平4.6.25 民法百選Ⅱ〔第4版〕97事件)。その理由として、同判決は、「このような場合においてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである」としている。よって、本記述は正しい。*窪田(不法行為法)443~444頁。潮見(基本講義・債各Ⅱ)126~127頁。 |
オ | 誤 り。 | 判例は、「生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払わるべきものであるから、たまたま……不法行為により被保険者が死亡したためにその相続人……に保険金の給付がされたとしても、これを不法行為による損害賠償額から控除すべきいわれはないと解するのが相当である」としている(最判昭39.9.25 保険法百選89事件)。よって、本記述は誤りである。*窪田(不法行為法)419頁。潮見(基本講義・債各Ⅱ)129頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
刑法 | 難易度 ★★★ |
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被害者の承諾に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。
(2019年度)
司法R元-9、 予備R元-1 |
被害者の承諾 | 正解 5 |
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正しいものは、5であり、正解は5となる。
1 | 誤 り。 | 横領罪(刑法252条1項)は、「自己の占有する他人の物を横領した」場合に成立する。まず、丙に対する横領罪の成否を検討する。この点、「他人の物」とは、他人の所有物をいうところ、重機は乙の所有物であるから、甲には、丙に対する横領罪は成立しない。次に、乙に対する横領罪の成否を検討する。ここで、甲が乙の承諾を得ている点が問題となる。この点、個人の自由・名誉・財産に対する罪は、被害者の意思に反する行為であることが前提と考えられるため、被害者の承諾があれば、当該犯罪の構成要件該当性は否定される。ここで、「横領」とは、不法領得の意思を発現する一切の行為を意味する。そして、不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいう(最判昭24.3.8 刑法百選Ⅱ〔第7版〕65事件)。そのため、所有権者の承諾がある場合には、そもそも「横領」とはいえず、横領罪の構成要件に該当しないと考えることができる。したがって、本記述では、同重機の所有者である乙の承諾があるため、甲には、乙に対する横領罪は成立しない。よって、本記述は誤りである。*山口(各)306~307頁。井田(各)295頁。リーガルクエスト(刑法各論)248頁。基本刑法Ⅱ281頁。 |
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2 | 誤 り。 | 判例は、保険金詐取目的で被害者の承諾を得て自動車を衝突させ、被害者に傷害を負わせた事例において、「被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものである」としている(最決昭55.11.13 刑法百選Ⅰ〔第7版〕22事件)。本記述において、被害者である乙の承諾は暴力団を脱退するための落とし前をつけるために得られたものであること、また出刃包丁により右手小指の根元から切断するという手段、方法等に鑑みれば、乙の承諾により当該傷害行為の違法性を阻却するものとはいえず、甲には、傷害罪(刑法204条)が成立すると考えられる。よって、本記述は誤りである。*西田(総)201~202頁。基本刑法Ⅰ160~161頁。 |
3 | 誤 り。 | 乙は、甲の欺罔行為により自殺意思を生じているため、自殺関与罪(刑法202条前段)が成立するかが問題となる。この点、判例は、本記述と同様の事例において、「本件被害者は被告人の欺罔の結果被告人の追死を予期して死を決意したものであり、その決意は真意に添わない重大な瑕疵ある意思である」として、殺人罪(同199条)が成立するとしている(最判昭33.11.21 刑法百選Ⅱ〔第7版〕1事件)。したがって、甲には殺人罪が成立する。よって、本記述は誤りである。*山口(各)14~16頁。基本刑法Ⅱ14~15頁。 |
4 | 誤 り。 | 虚偽告訴罪(刑法172条)は、同意を得た他人に関する虚偽申告についても成立する(大判大元.12.20)。その理由としては、同罪の主たる保護法益は、国家の適正な刑事司法作用・懲戒作用、副次的には虚偽申告される個人の利益とされているところ、個人の承諾では、前者の保護法益を処分することができないからと考えられている。したがって、甲には虚偽告訴罪が成立する。よって、本記述は誤りである。*山口(各)599頁。基本刑法Ⅱ551頁。条解刑法482頁。 |
5 | 正しい。 | 特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条2項)は、「法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたとき」に成立する。そして、同罪の趣旨は、職務違反行為を処罰する点にあるところ、職務違反となるか否かは被害者の意思、同意の有無とは直接関係がないとされている(大判大15.2.25)。裁判例でも、留置場の看守が、被留置者の承諾を得て性交した事例において、同罪が成立するとされている(東京高判平15.1.29)。したがって、乙の承諾があっても、甲には、特別公務員暴行陵虐罪が成立する。よって、本記述は正しい。*山口(各)604頁、609頁。基本刑法Ⅱ556頁。条解刑法551頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
憲法 | 難易度 ★★★ |
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次の対話は、婚姻の自由に関する教授と学生の対話である。教授の各質問に対する次のアからウまでの学生の各回答について、正しいものには○、誤っているものには×を付した場合の組合せを、後記1から8までの中から選びなさい。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○ 4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ× 7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
(2019年度)
司法R元-9、 予備R元-6 |
婚姻の自由 | 正解 5 |
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組合せは、ア×、イ○、ウ○であり、正解は5となる。
ア | 誤 り。 | 本問の最高裁判所判決(最大判平27.12.16 平28重判憲法6事件)は、憲法24条1項は、「婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと」し、「婚姻は……配偶者の相続権(民法890条)や夫婦間の子が嫡出子となること(同772条1項等)などの重要な法律上の効果が与えられるものとされているほか、近年家族等に関する国民の意識の多様化が指摘されつつも、国民の中にはなお法律婚を尊重する意識が幅広く浸透していると考えられることをも併せ考慮すると、上記のような婚姻をするについての自由は、……十分尊重に値するものと解することができる」としている。したがって、同判決は、婚姻の自由が憲法24条1項によって保障されているとは述べていない。よって、本記述は誤りである。*安西ほか(憲法学読本)86頁。精読憲法判例(人権編)83~97頁。平27最高裁解説(民事)666~669頁。 |
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イ | 正しい。 | 本問の最高裁判所判決(最大判平27.12.16 平28重判憲法7事件)は、「本件規定(注:民法750条)は、婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり、婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない。仮に、婚姻及び家族に関する法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても、これをもって、直ちに上記法制度を定めた法律が婚姻をすることについて憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。ある法制度の内容により婚姻をすることが事実上制約されることになっていることについては、婚姻及び家族に関する法制度の内容を定めるに当たっての国会の立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると考えられる」としている。よって、本記述は正しい。*渡辺ほか(憲法Ⅰ)459頁。リーガルクエスト(憲法Ⅱ)105頁。精読憲法判例(人権編)98~109頁。平27最高裁解説(民事)736~746頁。 |
ウ | 正しい。 | 憲法24条1項は、「両性」のほかに「夫婦」という文言を使用している。そのため、同項の文言を重視すれば「両性」とは、異性間のことを指すと解釈できる。そうだとすれば、同性間の婚姻について同項が保障していると解釈するのは困難であるといえる。一方で、同項の趣旨を戦前の家制度を解体し、個人の尊厳と両性の平等に基づく新たな家族像の構築を図ったものであるとする見解もある。この見解によれば、「両性の合意のみ」とは、戸主など他者の同意がなくても婚姻が成立することを示したものである。したがって、同見解によると、「両性の合意のみ」という文言を重視すべきでないという考え方につながる。よって、本記述は正しい。*長谷部(憲法)187頁。渡辺ほか(憲法Ⅰ)455~456頁。渋谷(憲法)462頁。注釈日本国憲法⑵499~500頁、509~510頁。新・コンメ憲法307頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
民法 | 難易度 ★★★ |
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制限行為能力者の行為であることを理由とする取消しに関する次のアからオまでの各記述のうち、誤っているものを組み合わせたものは、後記1から5までのうちどれか。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ
(2019年度)
司法R元-1、 予備R元-1 |
制限行為能力者 | 正解 2 |
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誤っているものは、ア、オであり、正解は2となる。
ア | 誤 り。 | 成年被後見人のした法律行為については、民法9条ただし書が、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、取り消すことができない旨を定めている。もっとも、未成年者については、このような規定は存在しない。したがって、未成年者が親権者の同意を得ずにした売買契約は、これが日常生活に関するものであったときでも、同5条2項により、取り消すことができる。よって、本記述は誤りである。*佐久間(総則)85頁、92頁。 |
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イ | 正しい。 | 成年被後見人のした法律行為は、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて、取り消すことができる(民法9条)。成年後見人の同意がないことを要件とせずに取消しを可能としたものである。成年被後見人は意思能力を欠くことが普通の状態であり、同意どおりの行為が期待できないことから、同意を与えて成年被後見人自身に行為させる必要性に乏しい一方で、たまたま同意どおりの行為がされた場合であっても、これを有効とすると、成年後見人の同意をめぐる争いが生じかねず、成年被後見人と相手方の地位を不安定にさせるからである。したがって、成年被後見人が成年後見人の同意を得てした行為についても取り消すことができると解されている。よって、本記述は正しい。*佐久間(総則)92頁。平野(総則)196頁。 |
ウ | 正しい。 | 被保佐人が保証契約をするには、保佐人の同意を得なければならず(民法13条1項2号)、保佐人の同意又はこれに代わる許可(同条3項)を得ないでした場合、同条4項により取消しの対象となる。本記述のように、被保佐人が保佐人の同意を得て保証契約をした場合には、当該契約は、完全に有効なものとして扱われるので、取り消すことはできない。よって、本記述は正しい。*佐久間(総則)95頁。我妻・有泉コメ68~71頁。 |
ウ | 正しい。 | 民法17条4項は、補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可(同条3項)を得ないでしたものは、取り消すことができると規定している。これは、被補助人が補助人の同意を得ないでした本人に不利益な行為は放置される可能性があり、本人保護の実効性を図る必要性があること等による。よって、本記述は正しい。*佐久間(総則)98頁。基本法コメ(民法総則)60頁。 |
ア | 誤 り。 | 成年被後見人の行為であることを理由とする取消権は、成年被後見人本人及びその代理人である成年後見人が行使することができる(民法120条1項)。そして、同126条前段は、取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅すると規定する。同条前段にいう「追認をすることができる時」とは、追認の要件を定める同124条によれば、成年被後見人については、「取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った」時(同条1項)、すなわち、成年被後見人が行為能力者となり、かつ、取消権を有することを知った時をいう。また、成年後見人については、成年後見人が「取消権を有することを知った」時をいう(同条2項1号)。よって、本記述は誤りである。なお、取消権の短期の期間制限を定める同126条前段は、「時効によって消滅する」と規定し、長期の期間制限を定める同条後段は、同条前段と「同様とする」と規定しているが、同条が定める期間の法的性質については争いがある。この点については、長期・短期とも消滅時効期間と解する見解、長期・短期とも除斥期間と解する見解、長期は除斥期間で、短期は消滅時効期間と解する見解等が主張されているが、いずれの見解に立ったとしても、本記述が誤りであることに変わりはない。*佐久間(総則)228~229頁、231頁。四宮・能見(民法総則)337~338頁。中舎(総則)290頁。平野(総則)441~444頁。一問一答(民法(債権関係)改正)37頁。 |
司法試験「過去問」、正解と解説の提供:伊藤塾(法学館)
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