企画 話し方講座 「こころ」を伝える話し方

家族や恋人、友人など、人と話すことは日常的な事柄の一つ。しかし「話すのはどうも苦手…」という人も少なくありません。そんな苦手意識の根底には、言葉がうまく出てこない、人前に出るとうまく話せないなど、共通した意識があるようです。そこで今回は、話すことのプロであるアナウンサー・塩田利幸さんに、話し方についてお話をうかがってきました。

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プロフィール
塩田利幸
昭和37年、関西テレビ入社。主にスポーツアナウンサーとして、約40年にわたり実況中継を務める。平成11年に関西テレビを退社後、フリーアナウンサーとして活躍中。関西学院大学法学部卒業。

インタビュー

塩田さんは、まさに「話す」プロでいらっしゃるわけですが、
話し方についてはどのようにして学ばれたのですか?
私の場合は独学で、特に先生についたということはないのですが、関西学院大学の放送部に所属していて、そこからプロのアナウンサーがたくさん出たのです。関学出身のアナウンサーが毎日放送にも、朝日放送にもいるという具合でした。
関西学院大学に入ったのは、当時は関学と同志社の放送部が非常にいいと聞いていたからです。だから関学というよりも、むしろ放送部に入学したという気持ちの方が強いですね。ですから関学合格と同時に、放送部の部室に飛び込みました。
私が入部第一号だろうと思っていたら、私の前にもう一人、入部希望者がいましたが(笑)。小学生の頃から「アナウンサーになりたい」と思っていた私にとっては自然な行動でした。
関学の放送部出身の先輩方が、ご自分の休みの日を利用して学校へ来られて、セミナーのようなことをやったりして指導してくださったのです。それが私の基本になっていますね。ですから、関学放送部OBアナウンサーの方々に感謝しています。
塩田さんからご覧になって、
若い方々の話し方で気になる点はありますか?
私が特に気になるのは「〜になります」という言い方です。例えば「おつりは500円になります」、あるいは「1、000円からお預かりします」とかね。喋っている方は特に意識しておられないかもしれませんが、日本語としておかしいな、という話し方をされている方が多いようです。
そういえば、「〜になります」という言葉に関して、面白い話があるのですよ。私が関西にある某百貨店のお寿司売り場に行くと、コハダやサバなど、いわゆる「ひかりもの」のお寿司が並んでいたのです。その中の1つに、何の魚を使っているかわからないお寿司がありました。
たぶんアルバイトの方だと思うのですが、その売り場に若い女性店員さんがいたのですね。そこで、その方に「これは何のお寿司ですか」と尋ねたのです。
そうしたら、その女性は「サンマになりまーす」と返答されたのですよ。私はイジワルなものですから、日本語としてちょっとおかしいなという言い方をされると、それに反応してしまうのですね。
それで、わざと「じゃあ、サンマになる前は何ですか?」と聞き返しましたら、その女性は、「サンマのまんまでーす」と返されたのです(笑)。おそらく何も意識せず、パッと返事されたのでしょうが、「おぬし、なかなかやるな!」という感じでした(笑)。
スムーズに話をするコツのようなものはありますか?
アナウンサーはしゃべる専門家と思われがちですけれども、いいアナウンサーになるためには、いい聞き手になることを強く要求されると思うのです。私は取材する相手のいいところが視聴者に伝わるような、いい聞き手でありたいということをずっと意識していました。むしろ聞き役になりたいという感じですね。
また、相手の受け答えの中から、次の話題を探し出すということも大切です。若いアナウンサーがやりがちな失敗に、あらかじめ考えておいた質問を、すべて取材対象に聞いてしまうことがあります。質問の答えを聞くとすぐ、次へ次へと進めていく人が多いのです。
それよりも、ある答えの中で「なかなか面白い」と思う話を見つけたら、他の質問を捨て、その話を突っ込んで聞くことをお勧めしたいですね。
話す相手や内容によって、柔軟な対応が求められるのですね。
とても難しそうですが…。
いいえ、そう難しく考えなくても、自分自身で「いい話だな」と思った点についてどんどん聞いていけばいいのです。せっかく相手がいい話をしているのに、無理に話を進めようとしなくてもいいのではないでしょうか。
例えば、報道局のアナウンサーがまず上司からいわれるのは「4W1H」です。第一に、「What」=何をこのニュースではいいたいのかをしっかりつかむこと。次にその出来事が、「When」=いつ、「Where」=どこで起こったのか、そして「Who」=誰が起こしたのかを、きっちり押さえていくことです。そして「How」=どのような状態でその出来事が行われたかということも把握しておきます。
この「4W1H」の中で最も大事なのは、「What」です。「これをいいたい」という「What」をしっかり持つことが、何より重要なのです。「What」を押さえておけば、「どんな内容であれば相手に理解してもらえるか」などということは気にしなくてもいいのではないか、と私は思いますね。お話をしながら常に「What」を頭の中においておけば、かなりいい内容のおしゃべりができるのではないかと思います。
その「What」を見つけるには、どうすればいいでしょうか?
「What」を見つけるのは個人の感受性で、勉強するものではありませんが、例えば新聞を読んでいても、そのニュースのポイントを探るような努力はできますよ。この事件はなぜ起こったのか、ということを常に自分の中で「?」としてもっていれば、それに対する答えは自分の中で自然に生まれてくると思います。
つまり「ニュースが見えている」ではなくて「ニュースを見ている」という姿勢で、意識的に「このニュースのポイントは何だろう」と探っていくのですね。
姿勢や声の大きさについては、いかがでしょうか。
朝、起きてすぐに大きな声を出しておくと、口の中でモゴモゴしない、かなりいいおしゃべりができますよ。正確に相手に伝わる話し方は、きれいな発音・発声ができるかどうかに尽きますね。
例えば「アエイウエオアオ」でも、早口言葉でもいいのです。何でもいいので、朝に大きな声を出しておくと、その日は午後になっても夜になっても、口の回りが滑らかだということは自分でも意識しますね。なかなかそんな大声を出せる場所はないかもしれませんが、ぜひ朝一番に大きな声を出してみてください。
話すことを怖がらないという気持ちも大切ですね。
そうですね。「What」が伝わればいいと単純に考えれば、それほどおしゃべりは怖くないと思いますよ。
もっとも重要なのは、「何を」話すかということ―。塩田さんの言葉には、プロならではの重みがありました。

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